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Nikon Z 8の2つのリコール修理、最速で完了

Nikon Z 8、発売早々に2つのリコールが発生してしまいました。

●ニコンミラーレスカメラ「Z 8」ご愛用のお客様へ(レンズが装着できない件)

https://www.nikon-image.com/support/whatsnew/2023/0623_02.html

1つ目は、レンズが装着できない件。2023年6月23日に発表。一部ボディとレンズで、装着出来ない場合があるとのこと。
こちらは、少なくとも手持ちのZ 8のボディとレンズでは発生していないため、何かの機会についでに出せば良いかなと放置していました。

ところがもう1つについては、ちょっと怖いカメラ落下の可能性があるお話です。
レンズ装着できない件は、X(Twitter)上でも発生した人の書き込みは見かけませんでしたが、ストラップ取付部が外れる件は、先に中国のSNSにアップされていた件から発覚しました。

●ニコンミラーレスカメラ「Z 8」ご愛用のお客様へ(ストラップ取り付け部の対策に関して)

https://www.nikon-image.com/support/whatsnew/2023/0807.html

ストラップ取付部外れはカメラやレンズ落下につながる深刻な話です。
この件はX(Twitter)上では対応が遅いという意見も出ましたが、7月後半に出始めてから(実際にNikonへの報告があったのはもっと早い可能性はあります)リコール発表までは2週間程度。
この不具合の発生率や発生原因究明と対策、修理対応方法、修理体制(世界規模です)を敷くまでの時間を考えると、むしろかなり早いと言えます。
X(Twitter)のフォロワーさんの中には、対応が遅すぎるという意見もありました。
もちろんリコールが発生すること自体がいけないことで、Nikonの品質保証体制が問われますし、その点を擁護する気もありませんが、それとリコール発表までの期間は別の話です。別に遅いとは思いません。
まあ、製造業の仕事をしていないと、こういうのは感覚としてわからないのでしょうけど。

炭素繊維複合材料(CFRTP)の正面カバーによる影響!?

Z 8の今回のリコール、自分なりに検証してみましたが、今回Z 8ではNikonボディでは初めて、ストラップ取付部のある上面カバー側に、炭素繊維複合材料(CFRTP)を採用しています。
Nikonはそれ以前のボディ、D750で初めてモノコックボディを採用し、CFRTPを採用しています。
Z 8では、D750とはボディの材質がマグネシウムとCFRTPの配置が逆になっています。

あくまで個人的な推察に過ぎませんが、今回始めて上面カバー側にCFRTPを採用し、ストラップ取付部もその部分に取り付けられています。
材質としてはマグネシウム合金と同等の強度を確保しているとのこと。
ただ、ここで言う「強度」は帝人化成のHPでは「耐衝撃性」となっています。
たわみが極めて少ないマグネシウムに対して、CFRTPは炭素繊維強化樹脂であることから、マグネシウムよりはたわみます。ただし炭素繊維は簡単に割れたり塑性変形はしません。
個人的に思ったのが、力がかかってたわんだときに、ストラップ取付部の固定が外れてしまうケースがあるのではないか?ということです。

今回始めて上面カバーに採用しただけに、取り付け方法に問題があった可能性が考えられます。
ただ、割と早く対策されたということは、構造そのものというよりは、取り付け品質の歩留まりの話なのかなと思います。

いずれにしろ、2つのリコールは良いことではないですし、Nikonの品質保証体制はしっかり見直してもらいたいと思います。

2つとリコール対応は実質1日で完了

先週金曜日午後にZ 8ボディをNikonの修理センターへ発送。月曜日に到着と修理開始のメールがあり、火曜の午前中には修理完了のSMSが入っていました。
そして水曜日にカメラが戻ってきました。修理でこんなに早いのは初めてのことです。

見た目には変化なしです。気持ち剛性感が増した感じがあります。
ネジ山が傷んでいたと言う方もいるようですが、今回自分のボディに関しては、よく見るとちょっと潰れがある程度、M2程度のネジならこの程度は許容範囲でしょう。私、仕事でこれより小さいネジを扱いますが、こういう黒いネジだとちょっとしたことで傷や潰れは出来るので、この程度は仕方ないかな。
もちろん舐めそうなくらいは駄目ですけどね。

今回相当な台数なだけに、特別な修理体制をとっているのでしょう。
重ね重ね、本来製造上の品質保証をしっかり担保できていれば、こんなことは発生しないのです。

ちなみにマウントのほうは、調整シート(シムシート)4枚と修理書に書かれていたので、調整は入ったようです。手持ちのレンズの装着感は特に変化なしでした。
これ以上品質問題が起きないことを願います。

品川駅上空を飛ぶ旅客機

夏休み中に行ったニコンミュージアム、品川にありますが、ちょうど午後3時以降南風のときの羽田空港への着陸航路となっているのですね。
真上を旅客機が飛んでいったので、撮影してみました。

おー、結構近いね。
品川、羽田空港に近いので、この時点でかなり高度は下がっています

国土交通省のHPより引用

国土交通省の新羽田航路の地図見ると、品川区の次はもう空港なんですもの、そりゃ近いです。

この写真は3枚ともNIKKOR Z 40mm f/2で撮影。画角で言うと標準レンズですから、それでこれだけの大きさで写るんですもの、結構近いですね。
ビルに吸い込まれていく様が印象的でした。

この日の撮影をもって、Nikon Z 8はリコール修理のため旅立ちました。前代未聞の、レンズ装着できないかもストラップ環外れちゃうかも問題への対応です。
ほんと近年のNikonの品質、どうかしていますよ…

Nikon 35Tiのデモ機を動かしてみた

先日行ったニコンミュージアム、コロナ禍で一時撤去されていた、触れる歴代カメラの展示が復活していました。
以前あったF2 Titanの触り心地には痺れましたが、今回はなく、高級コンパクトカメラの28Tiや35Tiがあったので、動かしてみました。

動画で撮ってみました。

アナログ表示のメーターがかっこいいですね。ただ、カメラのファインダーを覗いていると見ることができないのです。
このカメラの特徴的なギミックであるとともに、実用性皆無(笑)なのもまた高級機らしいですね。

残念ながら、Nikonはこの手の高級コンパクトがあまり上手ではなく、ライバルほどは売れなかったようです。
1993年に発売された35Tiは、その機種名通り35mm f/2.8の単焦点ニッコールレンズを搭載、チタン外装にリバーサルフィルムでも安定の露出を得られるマルチパターン測光を搭載、1年後に28mm f/2.8の単焦点ニッコールを搭載した28Tiも発売され、こちらはボディカラーがブラックでした。

この時代は京セラのCONTAX T2、MINOLTA TC-1を始めとする、高級コンパクトAFカメラが各社から発売されていました。
Nikonもその流れに乗って発売した35Tiと28Tiでしたが、結局その後に後継機種を発売することはありませんでした。Nikonは昔からコンパクトカメラが苦手でしたが、このカメラも中々のギミックを搭載しながらも、残念ながらブームに乗ることはできなかったようです。

現在では、この最大の特徴であるアナログ表示の不具合が出ている個体も多く、まともに動作する個体は減っています。特にこの時代のAFコンパクトは、機構的にもコンパクト機ゆえに耐久性で否一歩だったり、電子基板が駄目になるものも多く、機械式カメラと違って簡単に直せないため、中古でも手出ししづらいですね。
Nikonもすでに修理受付はしていませんが、こうした展示機は状態の良いものを整備して展示しているのでしょうね。中古市場でもめったに出てこないため、高値安定している印象です。
自分も一時期欲しかったけど、やっぱり当時から値段が高かったというのあって、手を出すことはありませんでした。
そもそも、これだけフィルム価格が高騰してしまうと、フィルムで撮ること自体のハードルが高いですね。

でもやっぱり欲しい気はします。まともに動くなら、CONTAX T2とかT3も良いですけどね。

ニコンミュージアム「企画展「AI NIKKORの魅力~ニコン社員による写真展~」を見に行ってきた

ニコンミュージアムが、2024年の本社移転に伴い。2024年3月1日から長期休館に入るということで、夏休み閉館から開けた16日、行ってきました。
今回はタイトルの通り、AI NIKKORという、NikonがFマウント一眼レフカメラ用のレンズとして最も長期間販売していたMF(マニュアルフォーカス)レンズによる写真を、社員自ら撮影したものを展示していました。

会期は2024年2月29日まで延長となりましたが、パネルの表示では9月2日までとなっていました。今後修正されるのかな?

各レンズで撮られた写真とレンズが展示されていました。
どれも中々の力作です。ニッコール千夜一夜物語でおなじみのあの社員の写真(佐藤氏のお子様の成長記録も)、中にはMr.ニコン、フェローだった”元”社員のあの方写真も!

基本、AI NIKKORはMFレンズですが、最初に撮ったパネルにもあるように、技術的重要性から、F3AF用レンズのみはAFレンズですが、この企画展に登場しています。

AI AF Nikkor 80mm f/2.8SとAI AF Nikkor ED 200mm f/3.5Sの2本は、F3AFという、マニュアルフォーカス一眼レフのF3をベースにAF化したカメラ専用のレンズで、F3AF以外には、一眼レフではF-501、F4、F-601Mにしか装着できません。しかし解説文にありましたが、マウントアダプタFTZを介したZマウントのミラーレス一眼で撮影可能ということです。となると、手に入れてみたくなりますね。

企画展以外の定常展示も、少しづつ入れ替えなどをして工夫しているようです。
コロナ禍で一時撤去されていた、触ることが可能な歴代カメラの展示が復活していました。これは嬉しい!

Zマウントシステムの展示もあり、2018年登場から5年、やっとレンズも充実し始めたな、という印象です。
水中カメラのNIKONOS-Vの展示もよかった。もう今水中カメラをNikonが売ることはないのだろうけど。せっかくNikon 1 AW1まで出していたのにね。

ということで、ニコンミュージアムも来年2月で一旦休館となりますので、ぜひ足を運んでは?

カメラを落とした! 原因推察と修理までの流れ

ちょっと前ですが、Nikon Z 9を落としてしまう(落ちてしまった、といったほうが良い)トラブルに見舞われました。

経緯としては、ちょうど百里基地に展開する米空軍のF-35A戦闘機撮影のため、撮影ポイントに移動でした。
レンズは、AF-S NIKKOR 600mm f/4G ED VR(以下ロクヨン)をマウントアダプタのFTZ II経由でNikon Z 9に取付けていました。
レンズは5kgを超える非常に重いものなので、レンズ側のストラップを肩から斜めがけにして、ボディはレンズに装着した状態です。
この状態で移動中、ゴンという音がすぐ後ろでなりまして、連れの方が「カメラが!」というので振り返ると、歩道脇の草むらにZ 9 + FTZ IIが転がっているではないですか!
慌てて拾い上げると、一見草むらがクッションになって大丈夫かなと思いましたが…

しっかり打痕が付いていました。
ただ、落としたにしては、液晶など表示画面やファインダも割れていないし、SmallrigのL字プレートも特段傷はなし。

そして一度カメラをレンズに取り付けて電源を入れるとファインダに何も表示されず、肩液晶(有機ELですが)にこんな表示…

Err”

ああ、あっぱり壊れたか…
しかし、気を取り直して、一度レンズを外し、FTZ IIの接点に水滴がついていたのでふき取って再度装着、電源を入れると…電源入った。
ファインダも液晶面も表示できている。
さすがフラッグシップ機。頑丈だな!なんて思っている余裕はないけど、とりあえず撮影続行。もしダメだったら、サブ機のZ 8に切り替える予定でしたが、重量級レンズのロクヨンで撮る場合、Z 8より重く大きいZ 9のほうがバランスが取れるので、Z 9で撮りました。
撮影データ自体も…問題なさそう。ピントもちゃんと出ている。特段不具合はなさそうです。

Nikon Z 9落下後の撮影。ちゃんと撮れて、ピント精度も問題なかった


とは言えカメラは精密機器、分からない程度のゆがみや割れはあるかもしれません。特にマグネシウム外装はきわめて変形しにくい頑丈な材質ですが、強い衝撃が入ると割れることもあり、その割れはぱっと見てもわからない場合があります。
目に見えない細かな割れに対しては、探傷浸透剤やX線検査をしないと分からないため、やはり精密検査は必要です。

結局その日は1日問題なく撮影出来ましたが、落下品として数理に出すことにしました。

ちなみに落下原因は推測ですが、移動中にマウントアダプタFTZ IIのリリースレバーと体が触れてスライドして、外れてしまったのだと思います。それ以外考えられないので。
これがネイティブなZマウントレンズなら、まず体がカメラボディのレンズリリースボタンに触れて落としてしまう事故は発生しないはずで、このあたり、マウントアダプタという中継が悪さをした典型です。もうレンズストラップを使って移動するのはやめて、レンズの三脚座を持って移動することにします。
FTZ IIのリリースレバーも、体が触れてスライドしないよう、改修したいと思います。

クレジットカードの携行品補償で修理する

ちょうど今年の初めに、クレジットカードの携行品補償に加入しました。
クレカで買ったものでなくても、持ち物を使用中に破損させたり、盗難にあった場合など、10万円までの補償が出る仕組みです。(免責は1000円)
カードの保険会社に確認した所、補償が使えるようなので、ありがたく使用することに。入っていてよかった!
修理見積金額の分かるものと、破損状況の写真、購入時の金額が分かるもの後日提出する必要あり、こちらは申込用紙と共にカード会社に提出しました。

カメラはNikonのサイトからネットで修理依頼をかけ、落下品修理の場合、状態に関係なく初期見積ではNikon Z 9は94,000円の見積金額となっていて、この金額をカードの保険会社には提示しています。

Nikonのカメラの場合は、こちらから修理見積もりの確認ができます

「ショック・落下の修理品」を選択
Nikon Z 9のショック・落下の修理品の金額は見積もり時点で¥94,281

この見積金額を保険会社に提示しています。
実際の金額は、修理進行とともに不具合個所を洗い出して確定します。
マグネシウム外装は欠けが発生したため、交換をお願いしています。ここは前述の通り、目視で分からない割れなどが発生している可能性もあり、また微妙な変形も考えられます。

なお、保険会社からは、実際にかかった修理金額ではなく、見積時点での金額から支払額を決めるとのことです
これは一般的な保険もそうで、車なんかも修理するしないはユーザーに託され、見積金額から支払額が決定されますね。

そして保険の方ですが、支払い申込書と破損状況の写真、見積もりを送付してから1週間後、平日昼に何度か電話がかかってきて(機密の関係で勤務中は個人携帯持ち込めないので出られない)、留守電に「保険金の支払いの件でお電話いたしました。また改めさせていただきます」と何度も同じ留守電が。
これが2週間続いて埒が明かないので折り返し電話したら「お支払いします」とのこと。だったら留守電にその旨入れるよと!
このあたり、保険屋さんによってDX化が進んでいないなと思いました。ネット上でやり取りできる保険屋とそうでない保険屋、この違いは今の時代大きいですよ!
今回は、見積金額から免責の1000円を引いた、93,281円が支払われることになりました。最大10万円までの保険なので、助かりました。

実際の修理金額は…

今回、Nikonに火曜日に修理品が到着、金曜日には修理完了のお知らせが来ました。早い! 最初の段階では修理は3週間程度かかるとされていましたが、修理箇所が少なかったようです。

実際の修理金額は見積もりの半額以下となりました

修理金額は¥42,049と見積もりの半額以下で済みました! 思ったより安いです。つまり、あまり修理する箇所はなかったようですね。
土曜日には修理完了となったZ 9が納品されました。ただNikonの場合(他メーカーもそうらしい)、修理代金は代金引換で現金払いのみなんですよ。せめてカード払いできて欲しいですね。

修理箇所は

  • 背面カバー部組(傷の付いたマグネシウム外装)…¥8,118
  • 銅箔テープ…¥36(2点)
  • 視度調整ノブカバー…¥162

プラス交換工賃(関連系統の点検と調整、動作点検)、¥28,710に消費税と送料でした。
マグネシウム外装、もっと部品代も高いと思っていたら、1万円しないのですね。私、仕事でマグネシウム部品を扱っていて、それらはもっと単価が高い(最も特注品というのもありますが…)ので、さすが量産品は部品代が安いな、と思った次第。

この金額なら、現行品ならちゃんと修理したほうがいいと思いました。

きれいな姿で帰ってきました。
それにしても、落としたのに外装修理だけで済んだのが良かったです。ファインダや液晶が割れなかったのも幸いですし、イメージセンサがズレてしまうこともない(手ぶれ補正内蔵なので、強いショックでセンサがズレてしまう不具合は、わりとSONYなんかではあるみたいなので)のも良かった。
ここはフラッグシップ機の面目を保った感じでしょうか。

今回、人生で2回目のカメラ落下でしたが、いずれもNikonで、撮影の致命傷にならずに済んだのが幸いでした。SmallRigのL字プレートを装着していたのも、ショックの分散に繋がったかもしれません。
ほんと、落下には気をつけないとですね。機材が高価なだけに。そして使わなかったけど、サブボディとしてZ 8も持って行っていたので、本当に万が一のときでも撮影は継続可能。別にプロではないので、撮れなくても食いっぱぐれないけど、時間をかけて行った遠征先で撮れないと悲しいですからね。

Nikkor 180-600mm この焦点距離には歴史があった

レンズ交換式のカメラを手にすると、誰もが一度は望遠レンズに憧れる時が来ます。
しかしフィルムカメラの時代であった20世紀、とりわけ1980年代以前は、一般人が手に入れることのできる望遠レンズは、概ね300mmまででした。
もちろん、それ以上の焦点距離の望遠レンズは当然存在したものの、ハードルが高かったのは確かです。

ここでいうユーザーのハードルの高さとは、焦点距離が長いほど
・レンズが大きく重くなる
・レンズの価格も高価になる
・手振れしやすい
・ピント合わせが難しい(特にマニュアルフォーカス時代は)

という、大まかに分けて4つのハードルがありました。

特に「手振れしやすい」は、レンズの価格を抜きとしても、大きく重い超望遠レンズを手持ち撮影するとして、フィルムの感度はせいぜいISO50~400程度、さらにピントもMFで合わせるのは難しく、レンズもf値が暗くファインダも暗く見づらいという、本当に今とは比較にならないほどハードルの高い時代でした。
なので、300mmを超える望遠レンズで手持ち撮影だなんてのは、あの当時あまり考えられていなかったわけですね。
もちろん、光学設計もハードルが高かったわけです。

もっと昔、一眼レフがMFだった頃は戦闘機を機体全身アップで撮るだなんてのは、雑誌に載せるようなプロの神業がないと難しかったのです。
今でも「航空ファン」で写真編集の解説の連載を持つ元井英貴氏が、1970年代にNikon F2で撮った、航空自衛隊のF-104J戦闘機の写真に痺れたものです。
あの時代、元井氏はKodakのテクニカルパンという複写用の高精細フィルムを使用し、マニュアルでピントを合わせ、高速で離陸するF-104J戦闘機を望遠レンズで撮っていたのです。
ごく限られたプロにしか撮れない神業ですね。
そんな60年代70年代の超望遠レンズは、まだ高価でプロ用という感じで、一般人で所有する人は極めて少なかったと思われます。まして、当時は通常の焦点距離もまだまだ単焦点レンズが主流、超望遠ズームなんてのはさらに特殊でした。

私は戦闘機を撮るのが今は趣味ですが、撮りだした最初はまだフィルム時代、最初は望遠レンズすら持っていなくて、その後お金をためてNikon F90XとSIGMAの70-300mmのズームレンズで、フィルム残数を気にしながら、連写してもせいぜい数枚、戦闘機は遥か彼方に豆粒…といった状況でした。なので、本当にたまに撮る程度しかなかったです。その頃はまだ趣味とまでは言えなかったです。まして400mmだの600mmだのは夢のまた夢でした。

人生初の航空祭、1998年の航空自衛隊千歳基地にて、Yashica TL Electro XとAuto Yashinon 50mm F1.7で撮影
そりゃ望遠レンズが欲しくなりますわ…

MF時代のNikonの600mm望遠ズーム

Nikonの600mmクラスの望遠ズームレンズは、実は案外早く登場しており、1959年のNikon Fの発売からわずか2年後の1961年に、Auto Nikkor Telephoto-Zoom 20-60cm F9.5-10.5が発売されています。この当時はまだmmではなくcmで争点距離を表記していました。
http://nikonfan.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/20cm60cm_8689.html
https://redbook-jp.com/kenkyukai/2017/201707.html
しかし、このレンズは開放f値がf9.5-10.5と暗く、全長も長いため、三脚に据えて撮影が基本(フィルムでこのような暗いレンズで手持ちでピントとズーミングしながら撮影はほぼ不可能)です。
当時はスポーツ撮影に使われたと思われますが、さすがにプロ用だとしても、出荷数は少なかったと思われます。ましてこのレンズを使って、手持ちで高速で飛ぶ戦闘機を撮る、というのは相当なハードルです。
それでも、Fマウント登場からわずか2年で発売したのはすごい事です。Zマウントも見習ってほしかったです(笑

このレンズは、後に改良で開放f値がf9.5に固定され、AI化され、80年代まで発売されていました。
また、さらに開放値を明るくしたZoom Nikkor ED 180-600mm F8も76年に受注生産で発売され、
http://nikonfan.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/ed180600mmf8-5d.html
82年にAi-S化されました(こちらも受注生産)。
http://nikonfan.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/ed180600mmf8s-e.html
この180-600mmという焦点距離は、1982年のAi Zoom Nikkor ED 180-600mm F8S以来、f値は可変ながらより明るくなり、実に40年ぶりにZマウントでNikonから発売されることになるのです。

NikonからFマウントのAFレンズで600mmクラスの望遠ズームレンズが発売されることはなかった

ここまで紹介したレンズは、いずれもMF(マニュアルオーカス)です。Nikonは80年代にFマウントレンズをAF化させますが、AFモータをカメラボディ側に搭載するという方針から(それ以前に発売されたF3AFはレンズ内蔵AFモータ)、AFの超望遠レンズの発売が結果的に遅れることになりました
AFレンズ発売当初、Ai AF Nikkor ED 600mm F4S(IF) は発売を予告しながら、最終的に発売されませんでした。
このレンズは、ボディ側のAFモータでAFを駆動させようとしていたと思われますが、このクラスの超望遠レンズは非常に大いためく、ボディ側のAFモータで、AFカップリングを経由し長い機械伝達系でフォーカシングユニットを動作させるには、相当なモータトルクとスピードが必要で、最初からモータをレンズ側に搭載させたCanonのEOSシリーズのレンズと比較して、実用的なAF速度が得られなかったのではと推察します。
このつまづきが、600mmクラスの超望遠レンズの登場を遅らせることになりました。
Nikonがレンズ内モータのAi AF-I Nikkor ED 600mm F4D(IF) を登場させたのは、1986年のAF一眼レフF-501登場から実に6年後の1992年と、非常に遅れてしまいました。
これは600mmクラスの望遠レンズはレンズ側にAFモータを搭載しなければ使い物にならないと判断され、そこからのAFモータをレンズに載せる方針転換で開発に時間がかかったのでしょう。

これによって、AF一眼レフの王座は完全電子マウント化したCanonに奪われ、同時にこのクラスの望遠レンズの最大ユーザーである報道関係者がNikonからCanonに鞍替えし、シェアは逆転します。

また、レンズ側にAFモータ(コアレスモータ)を搭載したAF-Iレンズも、当初の対応ボディはF4とF90のみ(1988年発売のF4は、恐らくモータをレンズ側に搭載したF3AF用レンズが使えるように設計されていたことが救いとなった、あるいはプロ機としてレンズ側にAFモータを入れることも考慮した設計となっていた)で、その後超音波モータ化したAF-Sが1996年にF5とともに登場するまで、レン側のAFモータに対応ボディが少なく、また最終的にFマウントでAF-Sレンズがメインになるのが21世紀に入ってからとずいぶん時間がかかってしまったこともあってか、過去にMFにあった200-600mmあるいは180-600mmのAF化はついに行われませんでした。
もちろん、当時の一眼レフの位相差AFセンサがf5.6光束の縛りで、それより暗いf値のAFレンズが作れなかった事も影響しているかと思いますが、AF-S化すべきレンズが他にも多くあり、そうした望遠ズームにまで手が回らなかったのかもしれません。

そうこうしているうちに、SIGMAなどサードメーカーが150-500mmを、そして手振れ補正が望遠レンズに搭載されるなると、さらに150-600mm, 60-600mmといったレンズや、超ド級の300-800mm F5.6といったレンズも登場します。
NikonはAF望遠ズームレンズは長年400mmまでの期間が続き、2015年にやっとAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRを発売しましたが、これがFマウントで最長の焦点距離の望遠ズームとなりました。
※ただし、2018年発売のAF-S NIKKOR 180-400mm f/4E TC1.4 FL ED VRは1.4xテレコンバーターを内蔵しているため、テレコンを切り替えれば望遠側は560mmとなる

Zマウントで蘇る180-600mmという焦点距離

NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR 

前述の通り、40年ぶりに発売されるNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRというレンズは、MF時代のように特殊な用途のプロ向けとは違い、一般ユーザーが手の届く価格です。まあ20万円は超えますが。
ミラーレスレンズなので、開放f値の暗さも気になりませんし(f6.3は一眼レフでも日中なら問題なし)、重量もこのクラスの超望遠ズームとしては比較的軽量です(絶対的には少々重いですが)。
ライバルのSONYも、FE 200-600mmというレンズを2019年に出してから潮目が変わったように思います。このレンズが登場以降、飛行機界隈の撮影でも、SONYユーザーが増えてきました。
飛行機界隈のカメラマンは割と保守的で、一眼レフユーザーもまだまだ数としては多いので、このクラスのレンズが各社からそろえば、ミラーレスへの移行も進むのではと思っています。

いずれにせよ、Nikonユーザーにとっては長く待たされただけに、楽しみなレンズですね。

Tamronに丸投げではないと思われる NIKKOR Z 70-180mm f/2.8

Z 180-600mmと同時に発表された、タイトルのNIKKOR Z 70-180mm f/2.8。焦点距離がかつてFマウントで存在したAF Zoom-Micro Nikkor ED 70-180mm F4.5-5.6DのZマウント版では?との推測もありましたが、蓋を開けてみると、Tamron 70-180mm F/2.8 Di III VXD (Model A056 ※Eマウント版のみ発売) のZマウント版とも言えるレンズでした。
Tamronブランドではなく、Nikonから発売されてる純正レンズです。

OEM? 光学断面図は同じだけど…

この2本のレンズ、焦点距離やf値、光学断面図は同じです。

TamronとNikonでレンズ名称は異なるものの、光学断面図のレンズ形状と低分散レンズ、非球面レンズの配置は同じです。
また、ズームリングやコントロールリングの配置も同じ、ズームリングの回転角もであることから、ズームのメカ機構も同一と考えて良いでしょう。

しかし外観デザインは異なります。TAMRONをNIKKORに書き換えただけではないですね。
また、その他にも異なる点がいくつかあります。

  • TamronのAFモータはVXD (Voice-coil eXtreme-torque Drive)というリニアモータに対し、NikonはSTM(ステッピングモータ)
  • TamronのModel A056の製造国はベトナムだが、Nikonは中国
  • Tamronは広角端70mmで0.27mの最短撮影距離にするためにはMFでなければならないが、Nikonは全域AFが使用可能
  • Tamronはテレコンバーター使用不可(これはEマウントがサード製レンズのテレコン使用を許可していないため)に対し、Nikonはx1.4とx2.0両方のテレコンを使用可能

よく言われるOEM(original equipment manufacturer 相手先(委託者)ブランド名製造)は、相手先に丸投げでバッチだけ変えたもの、なんて揶揄する方もチラホラ見かけますが、こと製造業においては、自社名のブランドで製品展開するものは、当然ながらその製造責任は自社に回って来ます。これは自動車などでよく見かけるOEMでも同様です。
そして、実際にバッジだけ変えて販売されるものもあれば、そうでないものもあります。

まずこの2本、製造国が違います。そしてAFモータも違います。更に最短撮影距離でのAFが使えるか否かテレコン使用可能か否かなど、割と違いも多いです。
このことから想像できるのは以下のとおりです。

  • 光学設計とフォーカス、ズーム機構のライセンスをTamronから取得し、それ以外はNikonが設計・製造
  • 光学ガラスまではTamronが製造し、Nikonに引き渡して、以降はNikonが組み込み製造、または光学設計で得られた情報から光学ガラスもNikonが製造(あるいは第3者製造もありうる)
  • 全ての、あるいはデザイン以外の設計をTamronに委託し、製造はNikonが行う

上記に書いたことの一部だけかもしれませんし、実際はTamronとNikonの間での契約となるために、情報が公開されることはないでしょう。
個人的には、1つ目の光学設計とメカ機構をライセンスして、それ以外はNikonが設計したのではないかと思っています。特にAFに関しては、NikonのZボディに合わせて調整してあるはずで、この辺りがボディまで設計製造している純正レンズと、ボディは他社製というTamronの違いとなっている可能性があります。


今のところ、本レンズを購入する予定はありませんが、選択肢が広がったのは良いことです。
手ぶれ補正は内蔵していませんが、案外Nikon Zボディの内蔵手ぶれ補正は強力で、300mmまでなら内蔵でも手持ち撮影は行けますし、しっかり手ぶれ補正が効いていることも実感できます。

3年半待ったよ…やっと発表 NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR

Nikonの飛行機撮り、野鳥撮りユーザーが待ちに待ったレンズではないでしょうか?

NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR

ここ2年でやっと望遠レンズが充実し始めたNikonのZマウントですが、600mmクラスのレンズが高価なNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sしかなく、ライバルのSONYはFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSを、4年も前の2019年7月に発売しています。

SONY FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS

思えばSONYのαが、割と保守的で今でも一眼レフユーザーが多い飛行機撮り界隈も見かけるようになったのは、このレンズが登場したからというのが大きい気がします。
手に入る価格で600mmまでのズーム、それまでは一眼レフ用でサードメーカーのSIGMAやTamronの独壇場でしたが、純正レンズで600mmまでのズームを早くから登場させたSONYは先見の明がありますね。

2019年にはレンズロードマップに掲載されていた

2019年10月、NikonはミラーレスのZマウントレンズのロードマップを公開しましたが、その際に既に、今回発表のZ 180-600mmのベースとなっていた200-600mmの記載がありました。

2019年10月に発表されたNikon Zマウントレンズのロードマップ

今見ると懐かしいですね、この当時はまだZ 50mm f/1.2 SやMicro(現製品ではなぜかMCと呼称)大三元の広角と望遠、高倍率ズームのZ 24-200mmも未発売、まだまだレンズが足りない、Zマウントを導入する気にはまだなれない、そんな感じでした。

この2019年のロードマップで、今後発売を予定しているレンズは黄色のラインで描かれていますが、この中で200-600mm以外は、一部焦点距離の変更がありつつも、全て現在販売されています。その間にTanmronとのOEMの提携もあったのでしょう、ロードマップに書かれていない、Tamronの設計と思われるレンズも発売されています。
今回、Z 180-600mmと同時に発表されたNIKKOR Z 70-180mm f/2.8も、光学断面図はTamron 70-180mm F/2.8 Di III VXDと同一とみられることから、TamronのOEMと思われます(光学設計のみTamronから買ったのか、製造まで委託しているのか、どの程度Tamronが関与しているのかは不明)。

とにかく、ロードマップ掲載から3年半、本当に待たされましたが、Z 9やZ 8のような動態がやっとまともに撮れるようになったNikon Zにふさわしい望遠レンズがやっと出ますね。あとはミドルのZ 7/ Z 6シリーズも動態に強いAFを搭載して発売されれば。最もこれらの機種は2024年に出るのではとされていますが。

重量・サイズもライバルと並ぶ

FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSとほぼ同じ重量・サイズを実現したNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR。ライバルが4年前に発売していたのを考えると、大きな驚きはないですが、SONYがダイレクトドライブSSM(超音波モータ)採用に対し、Nikonは多くのZマウントレンズに採用するSTM(ステッピングモータ)です。
個人的に、モータの方式だけでフォーカス速度を語るべからずと思っていますが(光学・メカ設計やボディの性能にも依存するため)、巷の噂では、Z 100-400mmよりも速いとの話もあり、この点についてはあまり心配はしていません。

またペナペナフードか…

懸念点はレンズフードです。この手の望遠レンズは、レンズとボディを装着したまま、フードを地面側に立てて置くことが多く、より重量級の望遠レンズは、レンズフードの縁にゴムが取り付けられています。
ところが付属のレンズフード、HB-109は、ゴムの取り付けはなく、明らかに薄そうです。ペナペナしそうな感じで、ここはAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRのレンズフードHB-71とあまり変わらなそうで残念です。

見るからにペナペナそうなHB-109

対してSONYのフードALC-SH157はしっかりしていそうです。

SONYの200-600mm用ALC-SH157のほうがしっかりしていそう

これについてはNikonに要望を出すとします。あるいはサードでもっとしっかりしたフードを作ってくれないかな? SIGMAだってもっと頑丈なフードを採用しています。


ともあれ、このレンズは手持ちのAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRと入れ替えですね。やっとです、待ちに待ったレンズです。
これでNikonの望遠界隈ももう少し賑わえば…と思います。

病院の後、城南島海浜公園に行ってきた

月曜は、息子の口唇顎裂手術後の経過観察のため、大学病院へ行ってきました。
昨年末手術した、顎裂(歯茎の割れ)は、今回レントゲンを撮った所、まだ少し裂が残っているようで、今後接合されなければ、再手術だそうで、うむむ。

とまあ、こればっかりは今後の経過を見るしかなく、お昼で病院も終わり、病院から30分ほどで城南島海浜公園に行けることを知り、息子を連れて行ってきました。
カメラは、病院帰りだし、ガチなNikonを持っていくのも何だったので、LUMIX GX7MK3に、便利ズームG.VARIO 14-140mmです。

LUMIX GX7MK3とG.VARIO 14-140mm 飛行機は撮れるか?

さて、最近はPanasonicのLUMIXもS5IIで像面位相差AFを搭載し、随分動きモノの撮影も改善されたようですが、このGX7MK3は、まだ頑なにコントラストAFのみを採用していた頃の機種です。空間認識AFで、コントラストのみでも確かに、そこそこコンティニュアスAFは使えるのですが、突如フォーカスがすっぽ抜けるんですよね。

ということで、息子と遊びつつ、写真撮影。こういうときにカメラが軽いと、ホント助かりますね。

スナップを撮る分には何ら不満のないカメラです。ただ、やっぱりAFがすっぽ抜けることは度々あります。
これが、今までPanasonicのLUMIXがガチな撮影に向かない最大の理由でした。すごく使いやすいカメラなんですけどね。

旅客機程度のスピードの被写体なら、まあそこそこ追えます。が、Nikon Z 9/ Z 8のブラックアウトフリーに慣れると、メカシャッターによる像のブラックアウトは如何ともし難いです。バッファも少ないですし。まあそれでも被写体をちゃんと追えるのは、日頃戦闘機を撮っているお陰です。ブラックアウトしていてもだいたいこのあたりに被写体がいる、というのはわかるので。
あと、気温が高いとどうしても空気が揺らぐ(陽炎)ので、コントラストAFのみだともろにそれに引っ張られてフォーカスアウトすることも。

失敗が許されない状況じゃなければ、それなりに使えるかな、というのがGX7MK3のAFです。

平日なので人もまばら

最後に、鬼滅じぇっと- 壱-が降りるのを見て帰宅。遠すぎてほぼ見えなかったのですが(笑

遠方に着陸する鬼滅じぇっと

Nikon Z 8のHEIF画像はHLGとセット、現時点で使えるのか?

iPhoneやSONYやCanonの一部のミラーレス一眼で採用されている新しい圧縮画像形式の[HEIF]

その特徴として、階調幅がJPEG画像の8bitに対して10bitであること、JPEGに対して2倍の圧縮効率を実現し、同等画質ならJPEGよりも低容量で記録できること、カラーサンプリングが4:2:2に対応すること(4:2:0でも記録可能)、HLGやPQ形式のHDR(ハイダイナミックレンジ)に対応するのが特徴です。
非可逆圧縮なのはJPEGと変わらないものの、1992年に登場した古い規格のJPEGに対して、HEIFは2015年に規格制定されて、2017年より最初にAppleがiOSとmacOSでサポートしました。
Windowsは2018年より拡張機能として有償サポートしています(ただしこれが曲者で、後述します)。

大昔からあるJPEGは、四半世紀以上Webなどの主力画像形式ですが、近年動画ファイルは10bit HDRや高色域のRec.2020、解像度は4Kや8Kといったものも登場し、特に階調面や色域の点では、静止画よりも進んだものになっています。
こうした中、動画の高画質圧縮技術が静止画に降りてきた、というのがHEIF形式です。

NikonもZ 8でHEIF形式をサポートしました。
ではJPEGに置き換わるものとして使えるのか、という話です。

Z 8のHEIFはHLGに設定しないと使えない

まず、Nikon Z 8のHEIFは、階調モード[HLG](ハイブリッドログガンマ)に設定しないと使えません。
Z 8の画像記録は、[RAW+FINE★] [FINE]といったように、RAWではない方の圧縮画像形式の場合は、従来のカメラと同様、単純に圧縮率の設定でしか表示されません。
つまり、画質設定では、JPEGかHEIFかは選べず、階調モードを[SDR]か[HLG] で、JPEGかHEIFかが切り替わる方式です。

HDRの1つであるHLGは、対応のディスプレイでないと正確に表示できないのですが、PCのモニタもテレビもスマホも、ここ何年かでやっと対応のものが出ているのと、特にPCの場合はOSやディスプレイの組み合わせ、とりわけWindows OSと市販ディスプレイの場合、Windows側でもHDR設定しないと出力されず、しかもそのHDRも正しく作動するのか怪しいケースも有り…とまだまだ敷居が高いですね。

そんな我家も、メインモニタであるEIZO CS2740は、10bit入力対応ですが、HDRは非対応です。この上位機だと対応なんですけどね、こんなので差をつけないでほしいのですが…。一方、サブモニタのDELL SS2721QはHDR400対応です。こっちのほうが圧倒的に安いのに。
ただ、Windows S上ではHDR設定できるのですが、HDRに設定して、対応ソフトのNX StudioでNikon Z 8のHLGを表示させると…HDR表示されない上に、色味がおかしくなります。HDR自体、規格もまちまちで、輝度も高くなりがちで、比較的画面に近づいて見るPCディスプレイで本当に必要なのか…。そもそもガンマカーブの話だよねと思いつつ…。
なぜかNikon Z 8も、Canonも、HEIFはHDRとセットでしか使用できません。SONYはSDRとHDRがHEIFであっても選べます。

そしてHLGに設定すると、Nikon Z 8の最低感度は、ISO64からISO400となります。ピーカンで絞り開放、という状況では使いづらくなりそうです。

WindowsではHEIFは標準サポートしない

さらにHEIF、Windowsでは標準でサポートせず、拡張機能を入れているにも関わらず、うまく表示できなかったりします。
HLGで撮ったRAWをHEIFに変換する機能が、NX Studioでサポートされましたが…

RAW(HLG)からの変換だと、HEIFはHLGとPQ形式のHDRを選択可能

残念ながらそのHEIFファイルをPhotoshopで開こうとしても…

開けなかったりします。ということで、現時点でWindows環境では、HEIF形式のファイルは持て余します。これがJPEG並みにどこでも編集可能になり、Webでもネイティブにサポートされない限り、普及は難しそうです。
iPhoneも、写真を撮るとデフォルトでHEIF形式になりますが、SNSなどWebにアップロードする際は、自動でJPEG変換するそうで。こうしたユーザーに意識させない所はiOSの巧みなところですね。

いずれにしろ、現時点ではHEIFはJPEGの代替にはならない、ということになります

HLG(HDR)とSDRのRAWをJPEGに変換してみる

JPEGに変換した時点で、残念ながらHLGにはならなくなります、が、元々HLGは従来のSDRのモニタでも違和感が少なくなるよう、ピークの輝度は機器に依存するようなガンマカーブになります。これがPQ形式だと、ピーク輝度は固定となっているため、表示デバイスの最大輝度が合わないと、ガンマカーブがおかしくなります。互換性の点では、HLG形式のほうが有利です。詳しくはEIZOのサイトで

ということで、今回はHLGとSDRで撮ったRAW画像(HEIFは編集も出来ないので)をそのまま単純にJPEG変換してみました。色域はそれぞれBT.2020、AdobeRGBですが、sRGBに変換しています。
三脚を使っていないので、微妙に画像の位置は変わっています。写真は百里基地撮影後、百里神社にお参りに行って撮りました。

HLGは、確かに暗部の階調は持ち上がっているのがわかります。ちょっと色が薄く、色味が黄色っぽい気はします(WBはRAW現像時に揃えています)。ただ、それほど不自然にならないのは、HLGの互換性の高さでしょうか。
SDRのほうは、ピクチャーコントロール含めオートですが、少しサイドが高め、そしてコントラストも高いですね。
実際に画像のヒストグラムを比較してみましょう。


HLGは暗部をだいぶ持ち上げている一方、白飛びはありません。SDRのほうは白飛びが多く発生しているのがわかります。
これを見る限り、最終的にJPEGに変換するとしても、RAWであればHLGに設定する意味はありそうです。

どの画像でも言えますが、HLGはやや彩度が下がり、WBを揃えていますが暖色系、そして白飛び黒つぶれがなく撮れています。SDRは従来のガンマカーブで、白飛びを許容する感じです。
ちなみにZ 8の先行体験会で中の人に質問しましたが、RAW画像におけるSDRとHLGの差はガンマカーブで、画像が持つダイナミックレンジ自体は同等とのこと。あくまでHLGは白飛び黒つぶれをできるだけ発生させないガンマカーブで記録するということですが、これは撮影時に処理されるようで、HLG設定の場合は最低感度がISO400に上がり、暗部は持ち上げて撮影するため、RAWからHEIF(HLG/PQ)に変換は、元のRAWもHLGで撮影している必要があるとのことでした。

試しにSDR設定のRAW画像をNX Studioを使ってHEIFで書き出そうとした所、対応していない旨表示されました。
Lightroomでも、SDRとHLGのRAW画像は同様なガンマカーブでした。

前述のZ 8先行体験会で、中に人に「Z 9でもファームアップでHEIFに対応できるようになるか?」との質問に「現時点ではその予定はないです」と言われましたが、やはり撮影時に最低感度を上げる、暗部を持ち上げると言った処理がされている以上、イメージセンサの出力するファイルを後からいじるというより、イメージセンサ自体にHLGモードがあるのかなとも勘ぐったり。そうすると、単純にFWのバージョンアップでHEIFに対応するということは難しいのかもしれませんね

最終的にJPEG出力するにしろ、HLGで撮る意味はありそう、ただしHEIFは…

Nikon Z 8 の場合、HEIFで撮るにはHLGもセットになります。そしてRAWで同時に撮る場合のRAW画像自体にもHLGが適用されます。
仮に明暗差が激しい被写体を撮影する際に、HEIFを使う使わない如何に関わらず、RAWのHLGで撮っておけば、RAW現像である程度イジる必要ありますが、最終的にJPEG変換する際にも、白飛び黒つぶれを最小限に出来ます。
であれば、通常の撮影でも、明暗差が大きな被写体でHLGで撮る価値はあると思います。ただ、暗部を持ち上げるということは、ノイズも増えるのと、低速シャッターが使いにくくなるというのもあるため、状況に応じて設定するのが良さそうです。
1つ問題があるとすればm「最低感度もISO400まで上がるため、センサ自体のダイナミックレンジはISO64の基本感度より下がります。ガンマカーブで見かけ上はハイダイナミックレンジですが、実際のダイナミックレンジは基本感度よりは落ちることになります。そこをどう捉えるか、というのはありますね。

そしてHEIFは、少なくとも現時点では編集できるソフトも限られ、特にWindows環境では表示すら難しいため、あまり積極的に使える感じではないですね。