カセットデッキ PIONEER T-03SRのベルトを交換してみた

カセットデッキネタです。
前回、B’z Highway Xのミュージックテープを、手持ちのカセットデッキ、PIONEER T-03SRで再生してみたのですが、その過程で再生は問題ないものの、テープの早送りの回転が不安定であることがわかりました。

早送りが不安定になったカセットデッキ PIONEER T-03SR

せっかくの有休日なのに天気も悪いので、内部のベルトが伸びているのだろうと思い、交換することにしました。

ペナペナの安い筐体のデッキですが、MADE IN JAPANだったりします

まだPIONEERの本体がオーディオ部門を手放していなかった90年代の製品です。きちんとMADE IN JAPANです。今なら間違いなくMADE IN CHINAになっていることでしょう。PIONEERも、本体はオーディオ部門を切り離し、最近そのオーディオ部門を持っていたオンキヨーホームエンターテイメントが破綻、しかし何とかアメリカ企業のPremium Audio Companyにブランドを拾われ、日本国内ではTEACが代理店となることとなりました。
PIONEERブランドのオーディオ、好きなので、これからも良い商品を生み出して欲しいですね。

廉価デッキらしく中はスカスカ

販売当時の定価は¥39.800、購入価格は、確か当時エイプランというオーディオ雑誌によく載っていた通販の会社で、¥26,800と大幅割引されていました。高校生のお年玉でも手が出しやすい価格でしたね。
今ではありえない廉価なのも、カセットデッキの末期で作り手もコストダウンしても性能を維持できた時代です。

中身はスカスカ

廉価デッキらしく、鉄板もペナペナですし、中身もスカスカです。それでも、こうすることで低価格化していたのですから、アナログ末期のコストダウン技術はすごいです。

電源小さい! 大した消費電力はなく、アナログ回路も小規模なので、こんなものでしょうね。ヘッドやキャプスタン・ピンチローラーは、いつでもメンテ出来るので、今回は簡単に清掃するに留めました。
そして内部のメカを見てみると…おお、これまた安っぽいね。

写真中央奥の細いベルトが伸びていました

今回ダメだったのは、上の写真の中央奥にある細い方のベルトです。これが経年で伸びてしまい、回転時にたわんで回転トルクがしっかり伝わらず、早送りのスピードが不安定になっていました。

ちなみに、T-03SRはカセットテープを巻き取るモータはたったの1つ。1つのモータでテープの巻取、キャプスタンの回転を行っているのです。手前にある大きなプーリーが、テープを安定して送り出すためのキャプスタンの軸を動かしています。中級機以上であれば、個々の部分が独立したモータになっています。廉価機故に、1つのDCサーボモータで全てをこなしているのです。
このため、テープの回転ムラを示す、ワウ・フラッターは0.08%WRMSと、単体オーディオデッキとしては、あまり良くはありません。
それでも、実用上何とか問題ないレベルにはなっていますが。

早速ベルトを交換することに。

手持ちの汎用ベルトで近い長さのものを選択

以前買っていた汎用ベルトを使って交換します。
交換は取り外して入れ替えるだけなので簡単ですが、分解しないでやると、案外奥にあるプーリーにベルトを引っ掛けるのが大変でした。

こんな感じで、早送り・巻き戻しでもベルトがたわまなくなり、回転が安定しました。
メインのベルトも交換したいところですが、幅が太く長いため、これはまた次回ですね。今のところ再生は問題ないです。

DOLBY S NR基板

おまけです。せっかく開けたので、DOLBY S NR(ドルビーノイズリダクション)基板とやらを見てみました。

縦に基板が刺さっていますね。DOLBY S NRは、業務用のDOLBY SRを民生化した、最後のドルビーノイズリダクションシステムで、ノイズの低減効果は低音域まで及び、おおよそ24dB程度のノイズ改善が可能です。
ただし、1991年に登場したため、時代は徐々にデジタルオーディオに移行しつつあり、単体オーディオデッキでしか採用されることはありませんでした。
特に、初期のものは回路構成が大きいため、コストが掛かり高級機のみに採用、またナカミチなど高級カセットデッキメーカーの一部は最後まで採用しませんでした。
PIONEERのT-03SRは、このDOLBY S NRのICに、SONYのCXA1417Qを採用することで、回路をシンプルコンパクト化することが出来たためコストが下がり、定価¥39,800のデッキながら、DOLBY S NRを搭載するに至りました。
このT-03SRが、DOLBY S NRを搭載した最も安価なデッキでした。

でも見ての通り、SONY CXA1417Qで小型化出来たと言っても、あくまでもそれは単体デッキでの話で、DOLBY B/C NRのように、ICがワンチップ化されポータブルオーディオ、ラジカセ、カーステレオにも採用されたのと違い、IC1つで構成できたわけではないようで、これもDOLBY S NRが普及しなかった要因の1つです。

90年代は既にDAT(デジタルオーディオテープ)、MD(ミニディスク)と言ったデジタル録音メディアが登場、YamaroもT-03SR購入当時にDATデッキもMDも持っていたため、カセットデッキはこの廉価機で妥協していました。
90年代後半は既にカセットデッキは技術的ピークを迎え、デジタルと久遠メディアの登場と共に衰退が始まりつつありました。

あれから四半世紀、カセットデッキやカセットテープの技術が失われてしまったのも、無理はないですね。
今あるデッキやテープは末永く使えるようにメンテナンスしないとですね。