「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」庭田杏珠 × 渡邉英徳

『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』 庭田杏珠 × 渡邉英徳 /「記憶の解凍」プロジェクト(光文社)

予約して購入した1冊です。

きっかけは、Twitterでたまたま見かけた、モノクロ写真をAIでカラー化するという、東京大学大学院教授、渡邉英徳氏のプロジェクトでした。

AI自体は、昔からその名称はありましたが、ここ数年前から、ディープラーニングなどの機械学習により、膨大なデータから正しいと”思われる”情報を引き出す、という使い方が身近になってきています。
私も、この春からRaspberryPiとPythonによるAI学習、というのを勉強していましたが(最近できていない…)、昔と比べると、機械学習のハードルは下がってきて、AIがより現実的なものになりつつある気がします。

AIでモノクロ写真をカラー化する、そのプロジェクトの成果が、書籍となり7月に販売されました。

渡邊氏のTwitterには、現在も、モノクロ写真をAIでカラー化した写真が定期的に掲載されていますので、興味のある方はご確認いただくとして、AIも万能ではなく、やはり人の手が必要、と言うことがよく分かる書籍でした。

モノクロ写真は、明暗のみの情報しかないため、そこにRGB三原色のどの色がどの程度分布しているかはわかりません。しかし、モノクロ写真が成立するのは、人間がある程度脳内で、多分こんな色だったのだろう、という補完ができる、という側面もあるのではないかと思います。
【記憶の解凍】とはまさにそこで、例えば人間の肌の色とか、草木の色のように、ある程度特定しやすいものがある一方、花の色、煙の色などは状況で変わるため、AIの着色判断が正しいかを裏付けるには、まさに「その写真が撮影された現場に居た人の記憶」が不可欠です。
この写真集も、単純にAIが色付けしたものを載せたのではなく、当時の情報を知る人、あるいは撮影された被写体の人物に確認して、色の補正を行っているとのこと。
原爆投下時のきのこ雲の色も、当初AIは白と判断したものの、映画「この世界の片隅に」の片渕須直監督の指摘や資料などをもとに、最終的にはオレンジに着色した、というエピーソードも、書籍内で紹介されています。

基本的に文章は少なく、写真集という感じです。文庫本なので、写真サイズが小さいのが残念ですが、大きな写真にしたら値段も3,4倍してしまいますから、難しいところです。

【記憶の解凍】プロジェクト自体は、現役東大生の庭田杏珠氏が立ち上げたとのことで、まだお若い(2001年生まれ!)のに、高校生の頃にこの活動を始めたとは! 素晴らしいですね。

写真は、古い記憶を蘇らせるきっかけにもなります。今撮った写真も、10年20年後に観ると、当時の記憶が蘇ります。その写真がモノクロだったとしてもです。そこに色が付けば、さらに記憶が生き生きと蘇るのではと思います。(モノクロ写真そのものを否定しているわけではないので念の為、私もたまに撮りますし)

というわけで、この書籍、是非ご覧になっていただければと思います。
カラー化されるだけで、遠い昔のように感じた写真が、つい最近の出来事のように迫ってきます。確かにそこに人が居て、生活していたのです。