NikonのDタイプレンズって何だ?

最近SNS上でにわかに話題になっている、NikonのDタイプレンズ。
どうやらその名称だけが独り歩きして、勘違いが横行しているようです。
曰く、

  • レンズ側にAF(オートフォーカス)用モータを搭載していないレンズがDタイプレンズ
  • 絞りリングがあるAFレンズがDタイプレンズ

は一括りにDタイプと呼んでいる方がいるようです。

特に近年はオークションだけでなく、メルカリに代表されるフリマアプリの普及で、以前よりも多くの人たちが売買を気軽に行えるようになった結果、質の悪い出品者も増えました。特に転売ヤーによる出品は、質の悪さが目立ちます。説明不足、勘違いが横行している中、Nikonの一眼レフ用Fマウントレンズでも、誤った説明をしている出品者やSNS、ブログを見かけるようになりました。

「聞くところによるとモーターを内蔵していないレンズが全てDタイプというわけでもない……らしいですが、」と飯田ともき先生にとっても難しいのがFマウント

もっともこれは仕方ないと思う側面もあり、NikonもFマウントという1つのレンズマウント規格に対し、1959年から年代ごとに改良を加えてきた結果、あまりにも種類が増えすぎてしまったことが原因です。これらはユーザーの混乱を招き、さらには互換性の面でも混乱を招きました。
80年代のAF化の流れで、スパっとMFレンズの規格(FDマウント)を断ち切って立ち上げたCanonのEFマウントは、それまでのマウントとレンズをすべて捨てることになりましたが、結果的にNikonのような互換性問題もきっぱり断ち切った完全電子マウントとしたことにより、その後の進化による互換性問題は全くなく、初代のEOSボディと最新のEFマウントレンズも問題なく使用出来、なんなら初期のEFマウントレンズは純正アダプタ経由で、最新のRFマウントのEOSミラーレス機でも全機能を使用可能です。

NikonはFマウントという機械結合部分を一眼レフでは変えなかった結果、ある程度互換性は確保できたものの、最終的には互換性の面では大きく世代が異なるカメラとレンズの組み合わせで、一部装着できない、あるいは機能を発揮できない問題が生じました。
もっともプロやハイアマチュアが多く愛用していたNikonのカメラは、AF化や電子化といった点に対して保守的なユーザーも多かったですし、CanonはEFマウント以前のFDマウントで保守的なユーザーが少なかったからこそ、全てを断ち切ってEFマウントを立ち上げる英断が出来たとも言えます。
それを出来たのはCanonだけで、NikonもPENTAXもMinoltaも、マウント変更しないままAF化を行いました。

【訂正】MinoltaはAF化の際にαマウントに変更しましたね。Canonのような完全電子マウントではありませんが。訂正させていただきます。

起死回生で完全電子マウントにしたCanonに、シェアや販売台数で軍配が上がりました

で、Dタイプレンズって何なの?

脱線したので話を戻すとDタイプの定義は、Nikonのサイトにこう書かれています。

D信号(距離信号出力機能)
被写体までの距離情報をカメラボディーに伝達
DはDistance(距離)を表します。レンズのフォーカスリングに連動する内蔵エンコーダーで得た被写体までの距離情報をカメラボディーに伝達し、より高精度な露出制御を実現する3D-RGBマルチパターン測光Ⅱ/Ⅲ、i-TTL-BL調光等を可能にします。このD信号を持つレンズの内、レンズ本体に絞りリングを持つものをDタイプレンズ、持たないものをEタイプレンズ、Gタイプレンズと呼びます。

https://www.nikon-image.com/products/nikkor/about/technology.html#d

DタイプのDはDistance(距離)のことを意味し、「内蔵エンコーダーで得た被写体までの距離情報をカメラボディーに伝達」する機能を有するレンズのうち、「レンズ本体に絞りリングを持つもの」をDタイプと呼んでいます。
ここにはAFモータ内蔵、非内蔵(ボディ内蔵のモータを使用)については書かれていません。つまり、DタイプレンズにはAFモータを内蔵したものもありますし、非内蔵のものも存在するということです。
さらに言うと、AFレンズだけでなくMF(マニュアルフォーカス)レンズにもDタイプが存在するのです
これらはレンズの名称、レンズに書かれている銘板で見分けることが可能で、レンズの開放f値の後ろに「D」と入っているものが全て、Dタイプレンズとなります。
例を示すと、

▼AFモータ非内蔵Dタイプレンズ
Ai AF Nikkor 50mm f/1.4D

AI AF Nikkor 20mm f/2.8Dはモータ非内蔵Dタイプレンズのため、Nikon ZボディとマウントアダプタのFTZ IIの組合せではAFが使用できないが、マニュアルフォーカス時はフォーカスエイドでのピント合焦表示は可能

▼AFモータ内蔵Dタイプレンズ
・Ai AF-I ED Nikkor 600mm F4D(IF)
Ai AF-S Nikkor ED 300mm F2.8D(IF)

AI AF-S Zoom Nikkor ED 80~200mm F2.8D(IF)もモータ内蔵Dタイプレンズで、Nikon ZボディとFTZ IIでAFも使用可能

▼MFのDタイプレンズ
PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D

となります。
MFレンズにもDタイプがある、は案外盲点で、コアなファンでも忘れがちですね(笑) 上記のPC-EのDタイプレンズは電磁絞りを採用しながらも絞りリングは搭載されており(絞り値の機械的伝達のAI機構は有していない)、シフト・ティルト機構を持つためAF化できないためMFのみ、かつ距離エンコーダを搭載という数少ないレンズです。
1992年9月以降に発売されたNikonのCPU搭載レンズ(電子接点があるレンズのことです)は、2001年7月に発売されたCPU搭載MFレンズ AI Nikkor 45mm F2.8Pを除いて全て、距離エンコーダを搭載しています。
それ以前に発売されたFマウントのAFレンズ、F3AF用レンズを含むFマウントのAFレンズやMFでCPU内蔵のAI-Pレンズは、距離エンコーダを搭載しておらず、Dタイプレンズではありません。

Dタイプが登場する以前のAFレンズ(1986年4月以降に発売されたAF Nikkorレンズ及び1983年4月に発売されたF3AF用レンズ)は、例えば、
・Ai AF Nikkor 50mm F1.4S
といったように、名称としては末尾にSが付き、これはMFレンズのAi-SレンズにAFが付いたもの、と理解すれば良いかと思います。
特定の名称はなく、また初期のAFレンズ故に中古市場でも現在は数が少なくなってきているため、それらを混同してDタイプと呼んでしまっている人が一部にいるのだと思います。

なお、前述のNikonのサイトの説明にあるように、絞りリングがなくなったGタイプレンズ、さらに電磁絞りを採用したEタイプレンズは、距離エンコーダを内蔵していますが、名称としてはDタイプレンズとは呼びません。
Dタイプレンズは、必ずレンズの銘板にも開放f値の末尾に「D」が入っていますので、見分け方は簡単ですね。

現在は全てのDタイプレンズの生産が終了

NikonのAF一眼レフの発展と共に歩んできたDタイプレンズも、21世紀に入り絞りリングをなくしたGタイプレンズが主流となり、さらに電磁絞り採用のEタイプレンズの登場と共に、次第に数を減らし、2020年9月にはPC-Eレンズを除き、全て生産終了となっていることを確認しました。

そして、最後まで残っていたPC-EのDタイプレンズ、PC-E Micro NIKKOR 45mm f/2.8D EDも、先ほど確認した所「旧製品」の表示が出ており、これで全てのDタイプレンズが生産終了、産業用レンズを除いて、NikonのFマウントレンズで絞りリングを搭載したレンズが消えることになりました。

最後のDタイプレンズも「旧製品」に

Fマウントレンズやボディの開発はすでに終了していると思われ、ミラーレスのZマウントレンズも充実してきている現在、Fマウントの新製品が今後出ることは恐らくないでしょう。もしかしたら、企画もので20年後にあるかもしれませんが。
Dタイプレンズは終了しましたが、中古市場では豊富に出回っています。それでも年月とともに状態の良い個体は減るでしょうね。中には銘レンズもあるので、欲しい方は早めに確保したほうが良いでしょう。


“最後”のDタイプレンズ、いかがでしょうか? 今のところZマウントでPCレンズがデビューする気配はありません。こういう特殊レンズこそ、Nikonが率先して出すべきなんですが、今やニッチな商品はチャイナレンズのほうが強いかも?

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