PENTAXの”フィルムカメラプロジェクト “に想う

RICOHがPENTAXブランドにて、フィルムカメラプロジェクトを開始すると発表しました。

個人的に、過去からPENTAXブランドのカメラを所有したこともなく、今後も買うことはなさそう(RICOHのGRは興味があるけど、レンズの画角がネック)ですが、今や大手カメラメーカーが生産を終了したフィルムカメラの新機種の開発を検討するということで、SNS界隈でもこの話題で賑わいました。

動画も掲載されていて、割と本気っぽいですね。

PENTAXブランドにおいて、フィルムカメラ開発の検討を開始します。リコーイメージング/PENTAXが培ってきたフィルムカメラ開発のノウハウを生かし、ベテランの技術者と若い世代の技術者が一丸となって技術を承継すると同時に、新たな視点を加えることができないかを検討します。

https://news.ricoh-imaging.co.jp/rim_info/2022/20221220_037858.html

PENTAXのフィルムカメラは2003年発売の製品が最後に

さて、PENTAXのフィルムカメラ、最後に発表されたのは2003年。コンパクトカメラのESPIO 140Vと一眼レフの*istが同年に発売されたのを最後に、新型機種の登場はなく、現在に至っています。

つまり、開発の現場においては、最後のフィルムカメラ開発から20年程度経過していることになります。
20年といえば、会社内の人員も相当変わっていることになります。2003年当時中堅だった社員が、今は定年退職するような時代になっています。
20年の空白は大きいです。フィルムカメラの技術を知る人が続々と引退していきます。
ただ、20年はまだ当時を知る人もそれなりの残って入るはずです。50代の技術者であれば、まだ当時を知る人も多いでしょう。ただ、PENTAXは、旭光学工業からペンタックス株式会社を経て2007年にHOYAの子会社になった後、2011年にはRICOHにブランドを譲渡しています。
この間に生産拠点の整理なども実施され、技術者の離散もあったかと思います。これから新規開発、と言うのは結構茨の道かもしれません。
でも、今やらないと、本当に技術が失われてしまう、まさにギリギリの時期なのかな、ということになります。

と、この記事を書いていたら、TKO氏が語るFilm Prohjectの第2弾の動画で、同様のことが語られていました。

フィルムを取り巻く状況は良くないこと、若いユーザーに手が届く値段で新品保証付きのカメラを、今の時代に合ったカメラ、過去の技術者と一丸となって開発をすすすめる、デジタルを辞めちゃうということはない、そんなことをやってる暇はないだろうというつっこみを受けることはわかっている、でも興味が湧いたらなら応援して欲しい。

https://youtu.be/FXUmpqY3nWQ

要約するとこういうことみたいです。
概ね、SNS上で懸念されていたことは折込済ということでしょう。
ただ、「フィルムを取り巻く状況は良くない」という点で個人的に想うのは、カメラというハードそのものよりも、フィルムそのもの(フィルムと現像関連、印画紙など)の懸念のほうが強いと思うのですが、いかがでしょう?
フィルムカメラは、長い歴史の中で、未だに現役で使えるカメラは中古市場にたくさん流れています。そんなカメラも、フィルムが高価になり、あるいは買えなくなったら終了です。既にフィルムは買うだけでも高価なものになり、更に現像というハードルが若者の前に立ちふさがっています。
チェキのように、その1枚が価格的に少々高くても、オンリーワンの写真が撮れる、現像不要でその場で写真ができあがる、という気軽さがあるから、デジタル全盛の現代にもウケているわけですが、果たして高価になりつつあるフィルムに対するケアが、PENTAXにできているのでしょうか? これが抜けていないことを祈ります。

商売して成り立つか?

SNSで一番論議されたのは、この点でしょう。
ただでさえ、PENTAXのカメラは、現在主流になりつつあるミラーレスへの転換は行わず、一眼レフを続けると宣言しています。PENTAXからは、K-01のような一眼レフのKマウントのままミラーレス化したK-01や、1/2.3型・1/1.7型センサ搭載のレンズ交換式カメラQシリーズが発売されたものの、いずれも生産完了となっています。
ミラーレス化は、Nikonが苦しんだように開発費が相当かかるため、PENTAXの規模では開発が難しかったと思われます。

ただ、現状の一眼レフも、PENTAXブランドは売れているかというと、やはり苦しい状況かなと思います。
フルサイズ機K-1をやっとのことで出し、その後2018年にII型に改良されたものの、搭載されている3600万画素センサは、Nikonでは2012年のD800や2014年のD810で搭載された世代のものです。ライバルは既にその次の世代のセンサを搭載し、ミラーレスに以降していっている中、次世代機の姿は現時点で見えていません。
個人的にD810の3600万画素センサの出す絵は好きで、現在も愛用していますが、K-1IIは登場時点でライバルに対して周回遅れ感があり、更に現時点で発売から4年が経過してしまいました。いつまでも3600万画素センサが供給されるわけではなさそうなので、いずれは次世代機に移行する必要がありますが、果たして現在の状況で次世代機が登場するのか、といったところでしょう。

中判デジタル一眼レフの645Zは、2014年に発売されて以来、後継機の発表は現在に至るもなく、8年経過、その間に中判デジタルの世界ではFujifilmがミラーレスのGFXシリーズで登場し、あっという間に中判デジタル主力の座を奪っていきました。

APS-Cの一眼レフも、2020年のK-3IIIは現在も通用するスペックですが、せっかくの高速連写機なのに、それを活かせる望遠レンズのラインアップがサードを含めて貧弱なのが残念です。
既に旧機種となってしまったCanon EOS 7DIINikon D500と渡り合えるカメラのはずなのですが。

こうした状況の中、フィルムカメラを作る、ということは、動画にもあったように、社内の開発リソースを削ぐことにもなります。それでもRICOHがPENTAXブランドでフィルムカメラを開発する、と発表したことは、今や価格高騰でニッチになりつつあるフィルムに対して、ニッチな製品を作っていく、という意思表明でもあるかと思います。逆に、もはや王道のデジタル一眼レフカメラだけでは、商売にならない、ということなのでしょう。
デジタル一眼レフも開発はしていくけど、他のメーカーのようなスパンでの機種更新は難しそうですし。

若い世代にも手にしてもらえるフィルムカメラ、と言うことは、Leicaのように無尽蔵に価格を上げることは困難です。価格的制約がある中での開発は容易ではないでしょう。
自分も研究開発の仕事をしていますが、本当に開発ってお金がかかります。例え5万円で売るカメラでも、その開発には億単位のお金がかかります。
デジタルと違って、長い期間をかけて開発費用回収することになるので、結果的に黒字に持って行けないことはないでしょう。でも、これだけ世の中の状況が刻々と変化する現在、フィルムカメラが現役だった時代のように悠長なことを言ってられるのか?

もしかして、RICOHはPENTAXを手放すのではないか? フィルムプロジェクトのような企画は、どう見ても大手がやることではなく、新興企業やクラウドファンディングでやるような企画ですからね。
まあRICOHの下でこの企画を発表したのですから、RICOHがPENTAXを手放すということはすぐにはないと思いますが、この辺りは株主の動向もあるでしょう。

RICOH GRシリーズのように息の長いカメラを

今PENTAXはRICOHに買収されていますが、そのRICOHはフィルム時代のGR-1からデジタルになった現代まで、長いことコンパクトカメラのGRシリーズを販売しています。ユーザーからも長く支持されてGRというブランド化に成功した、数少ないコンパクトカメラです。

1996年発売のフィルムコンパクトGR-1からGRリシーズは始まった

GRIIIは、個人的にいいなぁと思いながらも、フィルム時代からの28mm(デジタルでは28mm相当の画角)レンズは、個人的にあまり好きではない画角故に、今まで手を出してきませんでした。
が、GRIIIxという40mm相当のレンズを搭載したカメラが出て、ちょっと興味があるんですよね。初めてGRシリーズで欲しいカメラなんです。
GRシリーズは、他のカメラと違って、最新機種を追いかける、というようなスタンスのカメラではなく、これしかない、いつか欲しいな、と思わせる数少ないカメラです。それでいて、べらぼうに高価でもありません。手が届く価格です。そして昔からゴテゴテせずシンプルなボディです。
GR-1が高級フィルムコンパクトカメラ末期の90年代後半に登場し、それがシリーズとしてデジタル化を経て現在に存在する、これこそがPENTAXも目指すべき理想ではないかと思います。RICOHがPENTAXを買収したからこそ、RICOHブランドが持っているGRシリーズは大いに参考になるはずです。RICOHブランドの技術者から得るものもあるでしょう。

フィルムメーカーも巻き込んで?まずはコンパクトカメラから

以上も踏まえた上で、茨の道だということは承知の上で、いずれはフルメカニカル一眼レフを、という目標を据えた上で、まずはコンパクトカメラからの開発になるようです。そして現在に合わせたカメラづくりを行うということ、過去の機種ののリバイバルではないということで、そのようなカメラが理想なのか。

フィルムメーカーも巻き込んで、と言うのは、やはりフィルムがないと、そして現像ができないと、フィルムカメラの意味がないからです。
フィルムは、大手の富士フィルムと組むのは難しいかな? あちらも今はカメラを大々的に売っています。KODAKは…ブランドとしては大きいですし、こちらが現実的でしょうか? お互いにメリットを享受できる形になるなら、コラボはありでしょう。現像のいらないフィルム、あるいは自宅で手軽に現像できるフィルム…うーんこちらの方が遥かにハードルが高いか…。でもフィルムも時代に合った形が必要ですね。カメラだけでなく。

話が脱線したけど、まずはコンパクトカメラ、というからには、AFコンパクトカメラでしょうね。シンプルな単焦点レンズを搭載した、GR-1のようなカメラ。でもGR-1をインスパイアしてはならない、PENTAXらしさのあるカメラ。そして価格的にわかものにも手が届く物。

今でも持っています、たまに使いたくなる京セラT PROOF

そういった点では、京セラがフィルムコンパクト末期に出したT PROOFのような、シャッター押すだけの超シンプルカメラなのに、Carl Zeiss T* Tessar 35mm F3.5とレンズは拘った、そんなカメラも良いですね。
私はこのカメラを、20年以上前のモデル末期で販売終了が近いと言うときに、マップカメラで2万円程度で新品購入しまして、現代に至っていますが、このシンプルさと、うまくハマるとなかなかの描写のレンズ、というのが気に入っています。
なんでも今中古で数万円はするみたいです。ボディはプラスチッキーで安っぽいこのカメラがですよ。でも、今新品で出たとして、果たしていくらになり、どのくらい売れるか、見当がつきません。T PROOFが欲しい人は数万円でも買うけど、その人口は決して多くはないのです。T PROOF自体、フィルムコンパクトカメラ末期に登場した機種のため、京セラ的にも黒字になったとは思えません。同じことをPENTAXが現代の目線で出すとしたら…本当に難しいことだと思います。

私のようなオジサン世代には、もうフィルムコンパクトは手持ちのT PROOFで十分ですが、若者が新品で買いたいカメラには、価格とシンプルさ、フィルム購入と現像のハードルの低さ、ここが肝となってくるでしょう。

ノスタルジーなカメラは、かつてNikonがSPS3のリバイバルを行いましたが、技術者への技術継承という面もあったにしろ、商売的には難しかったようで、これはデジタル一眼レフながらクラシックなデザインのDfでも同様だったようです。
PENTAXがどんなアプローチで挑んでくるか、不安8割興味2割といったところですが、ちょっと楽しみです。

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