娘の塾の試験で都心に行く機会があり、会場に送迎後、ちょうどよいタイミングだったので、表題の映画を見てきました。
「沈黙の艦隊」と言えば、漫画家かわぐちかいじの代表作であり、その後「ジパング」や「空母いぶき」のような海上自衛隊が登場する漫画も有名ですね。
同作は学生時代読んだこともあり、馴染み深い作品と同時に、なぜ今実写化?という疑問もありますが、主演の大沢たかお自らがこの作品の映像化を今このタイミングだからやりたい、と企画を持ち込み実現したとのこと。今までも実写化の話は合ったのですが、原作が大作だけに、予算や政治的な絡み(自衛隊の協力が得られない)から実現が難しかったのは想像に固くありません。中国の覇権、ロシアがウクライナに侵攻と言った情勢から、国防への意識が高まった今だからこそ、このタイミングなんでしょうね。
かわぐちかいじ作品の実写化というと、最近では映画版「空母いぶき」がいろいろな意味でアレな作品だったため(敵国が中国から架空国に変更、戦闘中なのに登場人物が少ない、何より空母という沢山の人と航空機が舞台なのに登場人物が極めて少ない圧倒的なスケール感のなさがね…)、特に日本のミリタリ系作品は予算面の苦しさや内容によって自衛隊の協力得られないとか、映像がイマイチなもの、滑稽な戦闘描写がほとんどなので、最初実写化されると知ったときは、戦々恐々としましたよ。空母いぶきの二の舞にならないかと。
しかし、今回ばかりは違いました。制作がAmazonスタジオだけあり、Amazonスタジオが初めて製作した日本作品とのことです。
GAFAの1つが映画作成にかかわっているだけあり、予算規模も日本だけで作るより多いのでしょうね。加えて変な忖度をしなさそうです(憶測ですが)。配給会社は東宝でした。
現代の情勢に合わせたアレンジがされていた
さて、原作の「沈黙の艦隊」は、冷戦末期の1980年代後半の世界が舞台。冷戦もかつてほどの緊張感はなく、旧ソ連もゴルバチョフ書記長の政策ペレストロイカにより、徐々に一党独裁の旧来の社会主義体制から民主主義寄りの体制に移行していた時期です。
日本はというと、まさにバブル経済末期で、アメリカの不動産を日本の企業が買い漁るなど、対日感情も悪化していた時期です。ちょうど今の中国と重なりますね。
なので、日本は表向き日米同盟を結びながらも、アメリカは日本を仮想敵ととらえていたとも言われていた時期です。
そんな中、作品では海上自衛隊の潜水艦が事故で喪失したと偽装し、実はその潜水艦の乗員は日米で極秘裏に開発した日本向けの初の原子力潜水艦「シーバット」に乗り込んでおり、日本初の原子力潜水艦となるはずでしたが、艦長の海江田四郎のクーデターにより「シーバット」は乗っ取られて行方をくらます所から、やがて海江田艦長は艦名を「やまと」と命名して独立国を主張、クーデターの意図が明らかになって世界を翻弄する、という超大作となっています。
80年代末の日米関係や世界情勢があってこその作品と思ってたので、あれから30年経過した現在、どのようなストーリーになるか、なぜ今なのか、興味深いところではありました。
原作の「沈黙の艦隊」は、やたら潜水艦同士が海中で競ったり、兵器名や用途が間違っていたり、さらに潜水艦が空を飛ぶような滑稽な描写もあるものの、ストーリーは原潜と核兵器を盾にした最強の独立国家として、日米を始めとした各国との政治的駆け引きが面白く、ミリタリ的な側面ではリアリティは今一歩かな、というのが自分の感想です。
では映画版はどうか?
Amazon Prime会員であれば、冒頭11分を見ることができ、まずはこれを見てみました。
これがなかなか描写にリアリティがあり、横須賀の海上自衛隊の潜水艦が停泊するバース(YOKOSUKA軍港めぐりの観光船から見ることが可能)で、実際の潜水艦の前で撮影が行われていたり、潜水艦内のセットもかなりリアリティがありました。
そんなわけで、劇場で実際見た本編も、これまでの日本映画ではなかったリアリティとクオリティ、よくぞこの2時間に詰め込んだなと思いました。
原作の時代から30年経過しているだけに、現代にアレンジされたストーリーとなっていました。原作者のかわぐちかいじ氏も、実写化するにあたり、現代の情勢に合わせたアレンジをこなって欲しいとの意見もしっかり反映された形です。
ミリタリ視線から見ても、本当に細かい部分は気になる程度で、テンポ良いストーリーなので話にしっかり入っていけました。もしつまらないと、いろんなところにケチを付けたくなりますが、そんな細かいことは気にせずに見ることが出来ましたね。
映画自体は、原作単行本の最初の4,5巻あたりまでの話となっていて、海江田艦長に乗っとたれた原潜「シーバット」が「やまと」になるシーンまで。間違いなく続編が作られるのではないかと思います。
続編に期待したいです。
ン?という描写は少ないけど
ミリタリ系の映画の場合、分かっていてあえて実際と異なる描写にするものもあれば、分かっていないような滑稽すぎる描写の映画も多いですが、本作はまるで自衛隊の潜水艦のドキュメンタリーを見ているかのごとく自然でした。特に潜水艦内の描写は、実際に公開された写真や映像、取材などからかなり精巧に作られていて、例えば自衛隊潜水艦としてという場する「たつなみ」の内部は、映像のベースとなっている実際の「そうりゅう」型潜水艦に即した潜望鏡配置で、光学潜望鏡と電子潜望鏡とちゃんと分けられていました。
公開された報道写真もかなり参考にした感じです。
そして「シーバット」は現状のアメリカの「バージニア」級原潜を模したかは分かりませんが、もはや光学潜望鏡がなく電子潜望鏡のみという描写が発令所内の様子からわかりました。
潜航シーンも実際にカメラを船体に取り付けて撮ったシーンも有り、まさにドキュメンタリーでした。
そんな感じで、素人目にはとてもリアリティがあった潜水艦の描写でしたが、わずかにン?と思うところもあることはありました。
①浮上した「シーバット/やまと」がどう見ても海自のそうりゅう型潜水艦
シーバットが乗っ取られ、それを追うアメリカ第7艦隊のど真ん中に浮上した「シーバット/やまと」の艦影が、どう見ても原潜ではなく海上自衛隊の通常動力潜水艦「そうりゅう」型でした。なぜここをCGで原潜として描かなかったのか不思議です。潜航シーンはちゃんとアメリカの原潜っぽい外観として描かれていたのですが。
②アメリカ海軍が何故かP-3C哨戒機を運用
潜水艦を探知攻撃する哨戒機、アメリカ海軍ではP-3Cは2020年にすべて引退し、後継のP-8Aに引き継がれましたが、映画では米海軍のP-3Cが爆雷を投下するシーンがありました。何故P-3Cを登場させたか謎です。海上自衛隊は今でもP-3Cを運用していますけどね。
③ASROC(対潜ロケット)の描写が変
アメリカ第7艦隊の艦艇から、VL ASROC(垂直発射型対潜ロケット)を潜航中の「シーバット/やまと」に向かって発射するシーン、ASROCはロケット弾(VL ASROCは誘導できるのでミサイルの扱い)を使って単魚雷を遠方へ発射できる兵器ですが、劇中描かれたASROCは、着水後も魚雷と言うより急潜航する爆雷のような描写でした。
ASROCの実際の描写はなかなかないため、このあたりは現役とマニア以外わからないかもですけど。
④海自潜水艦「たつなみ」の操舵がジョイスティックでない
登場する海自の潜水艦「たつなみ」は実際の海自潜水艦「そうりゅう」型をベースとした描写になっていますが、唯一、潜水艦の操舵が「おやしお」型のような従来型のステアリングだったこと。すでに「そうりゅう」型は、同じ映画で描かれている原潜「シーバット/やまと」と同様のジョイスティック操作となっています。もっとも、名称は架空の潜水艦のため、あえて海自潜水艦よりも「シーバット/やまと」のほうを最新鋭っぽさを出すために、そう描写した可能性はありますが。
シーバットや海自潜水艦の描写に力を入れた結果、米海軍水上艦の描写、空母や巡洋艦の艦橋は少し寂しげな感じでしたね。
そんなこんなで、全体としては現代モノのミリタリ系映画として、従来の日本映画のスケールを超えた作品となっています。この後どう展開していくか楽しみです。
そして映画館自体も、コロナ禍以来久しぶりだけあって、楽しめました。行ったシネマサンシャイン池袋もなかなか良い場所でした。
次回作が早く観たいです!